医療機関が、以前治療を行った患者の臨床症例を、症例研究のために、他の医療機関へ提供することを考えています。本人の転居等により有効な連絡先を保有していない場合や、同意を取得するための時間的余裕や費用等に照らし、本人の同意を得ることにより当該研究の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合は、本人同意なしに提供することは可能ですか。

(第三者提供の制限の原則)
Q7-24

医療機関が、以前治療を行った患者の臨床症例を、症例研究のために、他の医療機関へ提供することを考えています。本人の転居等により有効な連絡先を保有していない場合や、同意を取得するための時間的余裕や費用等に照らし、本人の同意を得ることにより当該研究の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合は、本人同意なしに提供することは可能ですか。

A7-24

個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはなりませんが、公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときには、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者へ提供することが許容されています(法第27条第1項第3号)。

医療機関等は、あらかじめ患者の同意を得ないで、当該患者の個人データを第三者である他の医療機関等へ提供することはできません。

しかし、一般に、医療機関等における臨床症例を、他の医療機関等に提供し、当該他の医療機関等における観察研究や診断・治療等の医療技術の向上のために利用することは、当該研究の成果が広く共有・活用されていくことや当該他の医療機関等を受診する不特定多数の患者に対してより優れた医療サービスを提供できるようになること等により、公衆衛生の向上に特に資するものであると考えられます。

また、医療機関等が、本人の転居等により有効な連絡先を保有していない場合や、同意を取得するための時間的余裕や費用等に照らし、本人の同意を得ることにより当該研究の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合等には、「本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当するものと考えられます。

したがって、医療機関等が以前治療を行った患者の臨床症例に係る個人データを、観察研究のために他の医療機関等へ提供する場合であって、本人の転居等により有効な連絡先を保有しておらず本人からの同意取得が困難であるときや、同意を取得するための時間的余裕や費用等に照らし、本人の同意を得ることにより当該研究の遂行に支障を及ぼすおそれがあるときには、同号の規定によりこれを行うことが許容されると考えられます。

なお、当該他の医療機関等においては、提供を受けた際に特定された利用目的の範囲内で個人データを取り扱う必要があり、観察研究のためという利用目的の達成に必要な範囲を超えて、提供を受けた個人データを取り扱うことは原則できません。また、法第27条第1項第3号の規定において個人データを提供できるのは「特に必要がある場合」とされていることからも、当該医療機関等が提供する個人データは、利用目的の達成に照らして真に必要な範囲に限定することが必要です。具体的には、利用目的の達成には不要と考えられる氏名、生年月日等の情報は削除又は置換した上で、必要最小限の情報提供とすることなどが考えられます。

この外、提供元及び提供先の医療機関等には、倫理審査委員会の関与、研究対象者が拒否できる機会の保障、研究結果の公表等について規定する医学系研究等に関する指針や、関係法令の遵守が求められていることにも、留意が必要です。
(令和3年6月追加・令和4年5月更新)

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