債権譲渡の実務においては、債権の譲渡人は譲受人に対し、債権者としての十分な管理回収を行わせしめ、譲渡人及び譲受人の経済的利益を保護するため、債権そのものに加えて債務者に関連する個人情報を移転することが不可欠であるが、こうした場合にも、個人情報保護法上、債務者本人から第三者に提供することについて明示的な同意を得ることが必要なのか。

5 第三者提供等

Q5-4

債権譲渡の実務においては、債権の譲渡人は譲受人に対し、債権者としての十分な管理回収を行わせしめ、譲渡人及び譲受人の経済的利益を保護するため、債権そのものに加えて債務者に関連する個人情報を移転することが不可欠であるが、こうした場合にも、個人情報保護法上、債務者本人から第三者に提供することについて明示的な同意を得ることが必要なのか。

A5-4

債権譲渡に際しての債務者に係る「個人データ」の取扱いについては、以下のような整理が可能であると考えられます。

債権譲渡に付随して譲渡人から譲受人に対して当該債権の管理に必要な範囲において債務者及び保証人等に関する「個人データ」が提供される場合には、個人情報保護法第 27 条により求められる第三者提供に関する本人の同意を事実上推定できるため、改めて明示的に本人の同意を得る必要は個人情報保護法上ないものと解されます。

ただし、上記解釈は、債務者が民法第 466 条第2項に基づく譲渡制限特約(注)を求めていないことを根拠としており、例えば、債権譲渡に伴い第三者提供される「個人データ」の本人が、譲渡制限特約を結ぶことを要求できない立場にある場合等については、同意の事実上の推定が及ばない可能性があることに留意する必要があります。

また、「債権の管理」とは譲渡及び回収等をいいます。そのため、「個人データ」が当該債権の譲渡及び回収等に必要といえるか否かについて、譲渡人等の側で慎重な検討が必要です。仮に、同じ債務者等に関する「個人データ」であっても、当該債権の管理に必要であるという合理的な説明ができない場合は、同意の推定は及ばないものと考えられます。

なお、本人たる債務者又は保証人等が債権譲渡に伴う「個人データ」の第三者提供について明示的に拒否する意思を示し、これにより、当該債権の管理に支障を来し、債権の譲渡人又は譲受人の財産等の保護のために必要な場合には、個人情報保護法第 27 条第1項第2号の定めに該当するため、本人たる債務者等の同意なく当該「個人データ」を債権の譲受人に提供することができるものと解されます。

ただし、当該債権の管理に支障を来すか否かの判断は個別具体的な状況によるため、それが否定されれば、当該データの譲受人への提供は個人情報保護法第 27 条に違反したものとなることに留意が必要です。

以上については、証券化の場合にも適用され得ると考えます。証券化の前提である債権の譲渡に関連して行われるデューデリジェンスや譲受人の選定等、当然必要な準備行為についても、(債権の管理に必要な範囲に含まれるものとして)同意の事実上の推定が及ぶものと解されます。

したがって、債権譲渡の準備行為のため、当該債権の債務者等に関する情報を、譲渡先候補者に対して開示することについても、当該「個人データ」の開示が、債権譲渡のために「当然必要な準備行為」であり、「債権の管理に必要な範囲に含まれる」と認められる場合には、債権の譲渡人等の側で合理的に説明できる限りにおいて同意の事実上の推定が及ぶものと解されます。

(注)民法第 466 条第1項では、「債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。」とされており、第2項では、「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。」とされ、第3項では、「前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。」とされています。また、民法第 466 条の5第1項では、「預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第 466 条第2項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。」とされています。民法においては、このように債権の自由譲渡性が保証されており、譲渡できない性質を有する、あるいは一部の譲渡制限特約が付されている債権を除き、債務者の意思にかかわらず譲渡することが可能となっており、債権譲渡を禁止又は制限したい場合には債務者は譲渡制限の意思表示をすることが必要とされています。したがって、債務者がこのような譲渡制限の意思表示をすることが可能であるにもかかわらず、それをしていない場合には、個人情報保護法第 27 条により求められる個人データの第三者提供に関する債務者本人の同意を事実上推定できると考えられます。

(注)個人情報保護法における「本人の同意」の解釈については、通則ガイドライン 2-16 を参照。同意の事実上の推定は、例外的な局面で認められ得るに過ぎないものであるため、十分御留意ください。

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